『すきっ!』について

2021年もハロプロ楽曲に限らずいろいろな曲を楽しみました。

その中でよく聴いたアイドル楽曲が、超ときめき♡宣伝部の『すきっ!〜超ver〜』です。


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私は今年初めて知った曲だったのですが、元は同グループが改名前「ときめき♡宣伝部」だった2018年にリリースされたアルバムに収録されていた曲で、今年になってTikTokで曲が流行ったのを受けてリアレンジ・再レコーディングしてリリースされた曲ということのようです。

 

最初に曲を聴いたときの印象は、単純に楽しくて面白い曲だなというものでした。そのあと、何度も曲を聴いていくと、興味深い点にいくつも気づいていきました。

まず構成が面白い。ポップスによくある Aメロ→Bメロ→サビ という形式ではなく、セリフも入ってちょっとトリッキーなAメロから曲調がガラッと変わるBメロのあと、Cメロがあってサビになっています。さらに間奏を挟んでAメロに戻るのではなく、1番とはまったく違ったかたちでどんどん展開をしていき、再びCメロが出てきてサビへと続いていくという、かなり変則的な構成となっています。

そして転調が比較的多い。最初Cマイナーから始まって、サビで半音上に転調してD♭マイナーに。間奏で短三度転調してB♭マイナーになって、間奏明けで一音上に転調して最初と同じCマイナーに。そこから一音上に転調してDマイナーになって、短三度転調でBマイナーに。落ちサビで半音上に転調してCマイナーに戻って、また一音上に転調してDマイナーで最後まで。

わりと忙しく転調していきますが、半音転調や一音転調、短三度転調というスタンダードな転調の組み合わせで転調しているのが興味深いです。

また、転調の変わり目のメロディも注目ポイントです。

たとえば1番サビの直前の「わたしの毎日はラブコメに変わったんだ」の「だ」の音は、転調後のキーの音が使われ、転調をなめらかにつなぐメロディとなっています。

1番サビ終わりの「君がキュンとキュンとしますよに」の「に」の音も同様に転調後の音が先取りして使われています。最後のサビで同じメロディが出てくる「曲がり角で君に会えますよに」ではそのあと転調しないので最後の「に」の音はスケール内の音になっていて、比較するとわかりやすいと思います。

転調しないと成立しないちょっと難しいメロディになっているので、メンバーがそれをしっかり歌えているのもすごいと思います。

 

落ちサビからの流れは、本当に素晴らしい。

徐々にリズムが盛り上がり「いつか結ばれますように あー!」で一音上へと転調。この「あー!」での転調が、まさに歌詞の「弾けそうなんだ もうだめだ 抑えきれない」の「抑えきれない」気持ちを具現化しているようです。

そこからサビを1回歌ってからの、2拍3連での「すき!」の繰り返し。この「すき!」の繰り返しではメロディックマイナースケールが使われています。この曲は誰かを好きになることの楽しさやときめき、高揚感を歌った曲ですが、このメロディックマイナースケールを使った「すき!」の連呼には、誰かを好きになる切なさや苦しさ、そしてそれを抱えた上で「すき」だと口にするまっすぐさが表現れているように感じます。

 

作詞・作曲・編曲は中村瑛彦さん。ひとりで担当しているからこその、詞・曲・アレンジが一体となってひとつの世界を作り上げる楽曲になっているようにも思えます。

 

 

YouTubeには、ミュージックビデオだけでなく、ライブ映像やスタジオで収録されたパフォーマンスの映像も公式に配信されています。

メンバーひとりひとりに見せ場があり、ひとつの物語を観たような気持ちにもなるパフォーマンスは実に魅力的で、どの映像もおすすめです。

いくつもあるパフォーマンス映像から、個人的に好きなふたつを挙げておきます。


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最後にひとつ、重要なことを書いておこうと思います。

私がこの曲『すきっ!〜超ver〜』を知ったのは、モーニング娘。生田衣梨奈さんがインスタグラムのストーリーで紹介していたからでした。ありがとう生田さん。生田さんの推しメンバーは「超ときめきレモン」の菅田愛貴さん(=曲冒頭の「こーのーきーもーちー」の方)だそうです。

 

 

※文中引用は 超ときめき♡宣伝部『すきっ!〜超ver〜』作詞・作曲:中村瑛彦 より

押韻の魅力

つばきファクトリー『意識高い乙女のジレンマ』を聴くたび、歌い出しの歌詞の響きが気持ちいいと感じます。

忙しいなんて 言い訳はナンセンス

同じメロディで繰り返されるこのふたつのフレーズは、フレーズの頭が「忙しい」「言い訳」と、同じ「い」の音で揃える頭韻になっており、最後は「なんて」「ナンセンス」と響きの似た音で揃える脚韻になっています。
ここでポイントなのは、普通の文章として読むと、エ段で終わる「なんて」とウ段で終わる「ナンセンス」では脚韻になっていないことです。
メロディに乗って「なんて」の「て」と「ナンセンス」の「センス」が同じ長さの音符ひとつ分で歌われ、符の頭になる「て」と「セ」が強調されることで、エ段での脚韻になっています。
メロディに乗せて歌われるという「歌詞」の特徴を生かした巧みな技法だと思います。
この頭韻と脚韻の心地よさが、曲の世界にリスナーをスッと引き込んでいっていると思います。

(※引用は つばきファクトリー『意識高い乙女のジレンマ』作詞:西野蒟蒻 作曲:KOUGA より)

 

つばきファクトリーの曲には、頭韻や脚韻=押韻を効果的に使った曲が多いように感じています。

低温火傷』では、Aメロ「氷のビル街溶かしそうなくらい」の「ビル街」「くらい」の「a・i」、Bメロ「 「小さい手だな」握られたら」の「だな」「たら」の「a・a」、サビ「君に低温火傷してる胸中 気づいたときにはもう遅すぎる」の「胸中」「すぎる」のウ段と、それぞれのパートで脚韻が使われ、歌詞が描く情景をより印象深くしています。

(引用は つばきファクトリー低温火傷』作詞:児玉雨子 作曲:大橋莉子 より)

 

『I Need You ~夜空の観覧車~』サビでの「I need you」(発音は「アイニージュウ」となる)の繰り返しから「世界中」で脚韻する流れる感じは実に気持ちいいです。

(※引用は つばきファクトリー『I Need You ~夜空の観覧車~』作詞・作曲:星部ショウ より)

 

最新シングルの1曲『涙のヒロイン降板劇』でもBメロの「取り返せ プライド」「繰り返す つらいの」という母音が「u・a・i・o」になる言葉を重ねた押韻も印象的です。

(※引用は つばきファクトリー『涙のヒロイン降板劇』作詞:山崎あおい 作曲:Shusui/Josef Melin より)

 

つばきファクトリー以外でも、ハロプロの曲には押韻が印象的な曲がたくさんあります。

ひとつ挙げると、モーニング娘。の『YES笑顔ヌード』。

歌い出しから

溢れるヒカリ
漂うブラックベリー
愛してやまないその瞳

と、2行が「り」で脚韻し、更に次の行もイ段で脚韻。このパターンがAメロでは続いていきます。
日本語も外来語も織り交ぜ、おそらく韻を踏むことを優先して選ばれたのではないかと思われるワードが耳に残り、その言葉の雰囲気がこの曲の空気を作り出しているように感じます。
また2番2回目では3行目でのイ段の脚韻のパターンを崩して、このフレーズを引き立てているのも効果的だと思います。

(※引用は モーニング娘。笑顔YESヌード』作詞・作曲:つんく♂ より)

 

 

歌詞での押韻はもちろんハロプロ以外の楽曲でもごく当たり前に使われているものです。
ただ、ハロプロ楽曲では制作の段階で押韻が特に意識されているのではないかと思うことがあります。というのも、ハロプロの楽曲で押韻が印象的だった作詞家の方のハロプロ以外での作品を聴くと、決して押韻が多用されいるわけではないからです。歌詞の依頼の際に制作サイドから「韻を踏んでほしい」というオーダーがあるケースが多いのではないかと思っています。

 

歌詞について語られる場合、そこから浮かび上がる情景や感情、あるいはそこに込められたテーマやメッセージなどが重視されることが多いと思います。
しかし、言葉の響きやリズムといった技巧的な部分も、歌詞を語る上で重要な要素だと思っています。

ハロプロ楽曲大賞'21

今年もハロプロ楽曲大賞'21に参加しました。

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以下に、私の投票内容とコメントを記載します。(ブログの日付は12月8日ですが、実際に内容を更新したのは12月9日です)

 

楽曲部門

『未来のフィラメント』宮本佳林


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2.0

宇宙、時間、いまは離れているけれど同時に重なりあうふたつの存在。そんなイメージを掻き立てるような世界をカッチリと作り上げているのが見事だと思います。曲のラストで宮本さんのボーカルが入る直前、アコースティックギターの奏でる旋律の定位が移動するところが好きです。

『がんばれないよ』Juice=Juice


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2.0

特にDメロ以降の曲の展開がドラマティックで、自分の中にあるものを確かめていくような歌詞に自然に引き込まれていきます。最後のサビでの半音上への転調で「さあ 明日もがんばれ」のフレーズの中で転調させて転調の前後をスムースにつなげているところが好きです。

『光のカーテン』つばきファクトリー

2.0

Dメロの「もしも時を巻き直せても〜」からの歌詞が印象的で、これまでつばきファクトリーが歌ってきた少女像らしい「決意の歌」に感じられました。Aメロ・BメロはGより低い音で作られており、サビがAから上昇するフレーズで始まりそれまでメロディで使われていなかった音域を使うことで曲の盛り上がりを生み出しているのが巧みだと思います。サビでのファルセットの使用も効果的に感じました。

※楽曲大賞の投票コメントに書き忘れたことを以下追記します。

この曲がアルバム『2nd STEP』でちょうど収録曲のちょうど中間となる8曲目に収録されているのは重要だと思っていて、アナログ盤のA面がこの曲で幕を閉じ、B面へと続いていくという、アルバムの中でひとつの区切りとなる曲のように感じています。

『エキストラ』譜久村聖 (モーニング娘。'21)


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2.0

アレンジもオリジナル版とほぼ変わらない忠実なカバーでありながら、オリジナル版とは違った情景を描く歌になっていると感じました。オリジナル版が「かなわぬ恋」だとわかっているから自分の中だけでそっとつぶやく独白とすれば、譜久村さんの『エキストラ』は「かなわぬ恋」とわかっていてもこぼれ落ちてしまった感情のような。歌い上げるのではなく語るようなボーカルを浮き立たせるミックスもいいと思います。

『愛されルート A or B?』アンジュルム


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2.0

三拍子のリズム、ハーモニックマイナースケールを使ったメロディ、ランニングベースやブラス、ヒステリックなギターが印象に残るアレンジ、耳慣れない言葉を織り込んだ歌詞と、アクの強い曲。それをアンジュルムが「気だるさ」すら感じさせて表現しているのが素晴らしいです。

 

※楽曲部門はすべて同点としました。上記の順番は順位ではなくリリース順にしています。

 

 

MV部門

『愛されルート A or B? (Studio Ver.) 』アンジュルム


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3.0

ほぼモノクロームにまで彩度が抑えられていた映像に途中からリップや衣装の一部の赤だけが差し込まれ、最後のサビでワンカットの中で色が付くという演出にやられました。その演出がより鮮烈に感じられる「Studio Ver.」への投票です。

『未来のフィラメント』宮本佳林

2.0

歌詞に登場する「星」からイメージを膨らませたような映像の雰囲気が気に入りました。ふた通りの衣裳の宮本さんや星空と青空など「対比」を感じさせるところも印象に残ります。基本はシネマスコープサイズの中、フィルム風の映像で16:9になる画面サイズを使った演出も好きな部分です。

(楽曲部門でも投票しているため動画は省略しています)

『SHAKA SHAKA TO LOVE』アンジュルム


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1.0

とにかくカラフルなミュージックビデオで、メンバーカラーの使い方がうまいなあと思いました。「SHAKA SHAKA TO LOVE」を繰り返すパートでは、あえてメンバーの無表情なダンスカットにして、最後のそのパートで笑顔を見せるのも印象的な部分です。

 

 

YouTube部門

【転調#01】7人組アイドル『長調セブン』とは!?転調の基礎編~ハロプロ音楽理論~ / 転調


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2.0

「白鍵だけで説明する」という企画の趣旨上、難しいかと思われた転調をいつもながらの巧みな喩えで説明してみせたのに感心しました。すごいです。

【アプカミ#229】アンジュルム「はっきりしようぜ」MV撮影メイキング・つばきファクトリー「最上級story」ギターREC・「 愛してナンが悪い!?」小田 REC MC : 浅倉樹々 段原瑠々


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2.0

『最上級Story』ギターRECへの投票です。セッションミュージシャンがシンプルなプレイを求められる場合があることが感じられて興味深いレコーディング風景でした。あとレコーディングに登場したギターが私好みの機種ばっかりだったのも楽しかったポイントです。

COVERS - One on One - Memory 青春の光 / 小田さくらモーニング娘。'21)・岸本ゆめのつばきファクトリー) / COVERS - One on One -


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2.0

歌自体はもちろんのこと、レコーディング風景が映像として観られることで、小田さん、岸本さんそれぞれのマイクに向かう(文字通りの)姿勢の違いがわかるのも興味深いポイントでした。

アイマストーク生田衣梨奈が歌う!!【ハロー!アニソン部#67】


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2.0

生田さんが歌うアイドルマスター楽曲『Tulip』が、生田さんってこういう曲もハマるんだという感じで実によかったです。

Hello! Project 2021 Winter ~STEP BY STEP~」-Digest- January 24, 2021 Start 15:00・ORIX THEATER


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2.0

間奏のセリフパートが思わぬ事態を引き起こしている娘。『泡沫サタデーナイト』に一票(笑)。こういう長期間のツアーの中で起きたある種のアクシデントが映像として見られるのは(それを公開部分に含めてくれたことも含めて)ありがたかったです。

 

 

推しメン部門

保田圭

私にとってハロプロに興味を持つきっかけとなった存在であり、この部門に選ぶのはこの名前以外にあり得ないです。 

 

 

全体的な感想のようなもの

以上が私の投票内容です。

楽曲部門に関しては、今回は投票期間が近づいた段階でノミネートリストを見ながら選んでいった5曲という感じです。ほかに候補に考えていたのはつばきファクトリー『ガラクタDIAMOND』、アンジュルム『泳げないMermaid』。コメントのあとにも書きましたが全部同じ配点で、リリース順に挙げてみました。

MV部門は『愛されルート A orB?』Studio Ver.が自分の中で突出していたのでまずこれを決め、あとは初見時に印象が強かった『未来のフィラメント』『SHAKA SHAKA TO LOVE』で。

今年から投票対象の範囲が変更となり、YU-Mエンターテインメント所属アーティストの楽曲が対象外となりました。今年も和田彩花さんや吉川友さんが投票対象となっていたら、私が選ぶ5曲も変わったかなと思います。

YouTube部門に関してはあまりに対象が多いので、自分が見ていたものから選び、かつやはり「楽曲大賞」なのだからということで私の勝手な基準ですが、歌唱や楽曲に関するものを選んでいます。それでもバラエティに富んだ幅広い内容となったので、順番を付けることはできず、全部同得点で順不同です。

今年も、ほかの方の投票内容や実際の集計結果を見るのを楽しみにしています。

さあ 明日もがんばれ

 本日4月28日にJuice=Juiceのニューシングル『DOWN TOWN/がんばれないよ』がリリースされました。
 収録曲の1曲『がんばれないよ』は、終盤の転調がすごくきれいです。
 転調自体は、ハロプロ楽曲も含めてポピュラー音楽でよく使われる半音上への転調です。

 半音上への転調だと、歌のないパートで転調したり、ブレイクを挟んで転調したり、あるいはボーカルのロングトーンで「♪Ah〜 ♯Ah〜」のように上がるパターンが多いと思います。
 『がんばれないよ』では「さあ 明日もがんばれ」というフレーズの途中で転調しています。途中でキーが変わるので「明日もがんばれ」のメロディ単体だと若干不自然というか落ち着かない感じもあり、そのためかネット配信番組『アプカミ』でのレコーディング風景を見ると植村あかりさんがこのパートで少し苦労しているように見えます。


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 しかし、オケの中でこのメロディが歌われ、かつ転調後のメロディと重なると、ひじょうに滑らかに転調の前後をつないでいます。

 歌のないパートやブレイク、ロングトーンで転調するというパターンは、転調のポイントをはっきりさせることである種のギャップを作り「この曲はここから一層盛り上がりますよ!」というより強い高揚感を生み出していると思います。
 『がんばれないよ』の、そのギャップを作らずひとつのフレーズの中で移り変わっていく転調は、歌詞で歌われる「がんばれないよ」という弱音と「がんばりたいよ」という気持ちが、切り替わるのではなくつながった感情として移り変わっていくことを強調しているように感じます。

 


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大サビの金澤朋子さんパートで使われるスケール外のE♭もいい。

 

 

 

 CDの初回生産限定盤SP1の付属DVDに収録され、配信では音源も販売されている『がんばれないよ』各メンバーのソロヴァージョンは、ピアノとアコースティックギターによる違ったアレンジになっており「さあ 明日もがんばれ」のパートがありません。シングルバージョンと聴き比べると「さあ 明日もがんばれ」の役割がよりわかると思います。


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※文中引用部は Juice=Juice『がんばれないよ』作詞:山崎あおい 作曲・編曲:KOUGA より

娘。 with Squier

 エレクトリックギター、エレクトリックベースの代表的メーカーであるFenderの日本版公式サイトの企画「Start with Squier」Vol.11Vol.12モーニング娘。佐藤優樹さんと横山玲奈さんが登場、Fenderのビギナー向けブランド・Squierのギターを抱えたグラビアとインタビューが前編・後編の2回にわたって掲載されました。

 

 2017年に開催された展示イベント「モーニング娘。museum ―モーニング娘。誕生20周年記念―」で当時のメンバーひとりひとりが娘。の曲から20曲を選ぶという「マイベスト20曲」という企画があって、その際に佐藤優樹さんはそのうち5曲をギターが好きという理由で挙げていました。

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私が撮影した同展示の写真。念の為、このコーナーは撮影可でした

  私はこの展示を見たときから佐藤さんがギターという楽器をどう捉えているかが気になっていたので、佐藤さんがギターについて語っている今回のインタビュー(佐藤さんは後編)はありがたかったです。

 

 同時に、このインタビューを読むと、佐藤さんにとって担当のレコーディングディレクターさん=娘。はじめハロプロの楽曲でギターを弾いていることも多い鎌田浩二(こーじ)氏の存在が大きいことを改めて感じます。

 

 

 こちらは、そのこーじ氏のギタリストとしての姿が見られるライブ映像。


つんく♂ / 見ておくれ!MY LOVERS(2004.03 Live at Zepp Tokyo)

 このライブ映像でこーじ氏はおそらくフェルナンデス製と思われるテレキャスタータイプのギターを使用。また過去の田中れいなさんのブログではやはりフェルナンデス製でコンコルドヘッドの、いわゆる布袋モデルに近い仕様と思しきテレキャスタータイプのギターの写真が掲載されています。

ameblo.jp 今回の「Start with Squier」の写真でふたりが持っているギターは、佐藤さんがテレキャスター、横山さんがストラトキャスター。それぞれのギター選びに本人の意向が入っているかどうかはわかりませんが、佐藤さんがテレキャスターを持っているのはテレキャスタイプのギターを愛用するこーじ氏に合わせたのかな、もしかすると佐藤さんが実際に所有するギターもテレキャスタイプなのかななどと、想像が膨らむところです。

 

 

 ちなみに、私が勝手に佐藤さんでイメージするギターはFenderジャガー

 佐藤さんと同じくドラムとピアノをこなすミュージシャンの鈴木祥子さんがギターを弾くときに愛用しているのがジャガーだという連想が理由のひとつ。


鈴木祥子『SUZUKI SYOKO with JACK-TATI & KAWAI SHINOBU LIVE AT GB』 ダイジェスト版

 もうひとつの理由は、ザ・スミスでの活動で知られるイギリスのギタリスト、ジョニー・マーが近年ジャガーを愛用しているので「マー」つながりでという連想です(笑)。

 で、ジョニー・マー本人が使用するジャガーのうち何本かには、市販のジョニー・マーモデルには搭載されていないサスティナーという機材が搭載されているのですが、サスティナーはこーじ氏のギターにも搭載されてたりします(田中さんブログの写真で確認できます)。娘。『Only you』『私の魅力に 気付かない鈍感な人』『It's You』なんかのギタープレイはサスティナーを使っているんじゃないかな。


Johnny Marr - Hi Hello (Live on KEXP)

 3:47あたりからサスティナーを使ったプレイ。

 

 いつかエメラルドグリーンのジャガーを持った佐藤優樹さんが見たいぜ!

 

ハロプロ楽曲大賞'20

 今年もハロプロ楽曲大賞に参加しました。私の投票内容とコメントをここにも記載しておきます。(記事の日付は12月23日になっていますが実際に内容・コメント、全体的な感想を追記したのは12月29日です)

楽曲部門

『意識高い乙女のジレンマ』つばきファクトリー


つばきファクトリー『意識高い乙女のジレンマ』(Camellia Factory [The dilemma of a girl who’s self-aware.])(Promotion Edit)

2.0

無機質にも感じるサウンドに乗った少し気だるげな独白から始まり、徐々に高まりを見せる「葛藤」。その葛藤の内容がアイドルの楽曲としてはわりと珍しく思えるものだったり、サウンドも歌詞も含めた楽曲全体のちょっと不思議な雰囲気に惹きつけられました。発音しにくいために普通なら歌詞では避けそうな「取捨選択」という言葉を使っていたり、本来の言葉の順序を入れ替えてあえて不自然にしたような「恋を知らなきゃ 愛はできない」という一節など、歌詞がちょっと癖のある感じになっているところも好きですし、やはり歌詞の面で「なんて」と「ナンセンス」「ナッシング」の押韻の気持ちよさもすごく好きです。

『KOKORO&KARADA』モーニング娘。'20


モーニング娘。'20『KOKORO&KARADA』(Morning Musume。’20 [Minds & Bodies])(Promotion Edit)

2.0

あえて音の隙間を感じさせるようなサウンドと、Bメロでふたつの異なるメロディ・歌詞が同時に歌われ(KOKOROとKARADAを象徴するかのように)ひとつに融合していくところなどが好きなところです。そしてサビの「君が好きさ」は、サ行の持つ摩擦感がこのフレーズを音として強く耳に残し、様々な感情を経て帰着したシンプルなメッセージを際立たせていると思います。

 

『空を遮る首都高速和田彩花


【和田彩花】空を遮る首都高速 【MUSIC ONLY】

2.0

リズムパートやシーケンスフレーズのシンセサウンドと、ピアノやストリングス、シェイカーといった生楽器系のサウンドの融合が心地いいです。パートによってベースサウンドの有無を巧みに使っているのも好きなところ。歌詞にはあまりポップミュージックでは使われないような言葉も使われ、ただ気持ちよく流れていくだけではない引っかかりのある作品になっているのも魅力です。

 

『Yellow Butterfly』吉川友


吉川友 - Yellow Butterfly -
2.0

吉川友さんは曲によっては曲を提供するクリエイターの色を強く感じることもあったのですが、この曲ではナチュラルな吉川さんを感じました。本人が初めて手がけたという歌詞は、「冷や汗」と「幸せ」、「雑踏」と「颯爽」「葛藤」と、響きの似た言葉を重ねるテクニックも見事。いままでの道のりを振り返るような歌詞にデビュー曲のフレーズも用いて「これまでとこれから」を前向きに感じせる爽快感が気に入った部分です。

『抱きしめられてみたい』つばきファクトリー


つばきファクトリー『抱きしめられてみたい』(Camellia Factory [“I want to be hugged.”])(Promotion Edit)

2.0

「きみ」との関係に感じる漠然とした不安を歌った1曲……と思いきや、曲の最後にその不安の具体的な理由を明かすという、ちょっとトリッキーな仕掛けにドキリとさせられました。もちろんその仕掛けだけでなく、情景描写から感情へと移っていく歌詞の構成や、不安定な心を象徴するようなサビの半音の音使いも好きなところです。

 

MV部門

『意識高い乙女のジレンマ 』つばきファクトリー

3.0

冒頭からさまざまなかたちで提示される「円」のモチーフ。間奏でその「円」のひとつであるシャボン玉がサウンドに合わせて弾けるカットにやられました。画面のサイズが現在では一般的でない4:3のスタンダードサイズなのも、個人的に昔観たフィルム撮影のアート作品を思い出して魅力を感じた点です。途中で映る時計の針がつばきファクトリーの結成日やこの曲のリリース日を指しているという細かな仕掛けも好きなところ。

『あなたが選んだもの、あなたが選ぶもの』和田彩花


【和田彩花】あなたが選んだもの、あなたが選ぶもの 【MUSIC VIDEO】

2.0

3分10秒あたりから、映像中の人物たちが顔を上げるのに合わせて画面の上下幅が広がっていくという、映像のフォーマットを表現手段として使う手法を面白く感じました。映像の中で冒頭からずっと左から右へと歩いていた和田さんが、最後に振り向き右から左へと数歩歩むのも印象的でした。歌詞の内容をイメージ的に表現し、余地や余白の多いところが魅力的に感じたミュージックビデオです。

 

『ホットラテ Hot latte』和田彩花


和田彩花 - ホットラテ Hot latte 【MV】

1.0

本人の顔も姿も一切登場したいのですが、間違いなく映像に和田彩花さん自身を感じるように思いました。見ていると特にラテの映像に引き込まれ、繰り返し見たくなります。「アイドル」のミュージックビデオとしてひとつの可能性を示してくれたように感じています。

YouTube部門

井上玲音がJuice=Juiceの歌を・・・」#08


「井上玲音がJuice=Juiceの歌を・・・」#08

3.0

リリースされたバージョンのアレンジを感じさせつつ、ギターをメインにしてソリッドになったアレンジがとにかく好きです。ナチュラルに歪んだギターの音やBメロでかけられたトレモロがたまらない。映像も、それぞれのソロショットではふたりが向かい合わせとなっている構図を連想させつつ、実際に一緒に映るショットでは視線が交錯しない背中合わせの位置という演出、全体の色調なども気に入っています。

井上玲音がJuice=Juiceの歌を・・・」#01


「井上玲音がJuice=Juiceの歌を・・・」#01

2.5

歌声はもちろん、ヴィンテージのローズ・ピアノのサウンドが堪能できるという点でも好きな映像です。ちょっとドキュメンタリー的な雰囲気もあり「Juice=Juiceの井上玲音」への期待感を高める良い作品であったと思います。

井上玲音がJuice=Juiceの歌を・・・」#03


「井上玲音がJuice=Juiceの歌を・・・」#03

2.0

この曲のポイントとも言える印象的なピアノのリフをあえて変えたリミックスに惹かれました。この企画初のコラボでありながら曲中はそれぞれのソロショットで通し、最後に初めてふたりが同じ画面に映るという趣向や、その最後のカットでシネスコサイズの幅広い画面を効果的に使っているのも良いです。

『ハッケン!音楽塾』 【コード#01】『フラリ銀座』『スッペシャル ジェネレ~ション』から学ぶハロプロ歌謡のツボ~ハロプロで学ぶ音楽理論


【コード#01】『フラリ銀座』『スッペシャル ジェネレ〜ション』で学ぶハロプロ歌謡

ツボ〜ハロプロ音楽理論〜

1.5

感覚で語られることの多いポピュラー音楽・アイドル楽曲について理論で語る視点を広めようという『ハッケン!音楽塾』の趣旨はすごく意義のあることだと思っています。どの回も興味深いのですが、特にこの回は喩えと実例をうまく使った解説がわかりやすく感じました。コード進行の解説は世に数多くあってそれぞれにわかりやすくするための工夫が凝らされていますが、その中でもこの回の説明はかなりわかりやすいと思います。

『ハッケン!音楽塾』 【仕事#01】職業作曲家のリアル!お仕事内容紹介編~ハロプロ音楽理論


【仕事#01】職業作曲家のリアル!お仕事内容紹介編〜ハロプロ音楽理論〜

1.0

もうひとつ『ハッケン!音楽塾』から。なかなかリスナーが知る機会がなく、それゆえに誤解されることも多そうな職業作曲家の仕事内容を詳しく説明することで、プロダクトとしての楽曲の制作過程を示してくれたのが有意義な回だと思っています。

推しメン部門

保田圭


保田圭『君への歌~Always Love~@ミュージックレストラン La Donna

私にとっては変わらず、いまに至るきっかけであり始まりである重要な存在です。

 

 

 

 

全体的な感想みたなもの

 以上が私の投票内容です。

 楽曲部門はすべて同点の2点で、順番は大体この順で選んだということで。

 『意識高い乙女のジレンマ』『KOKORO&KARADA』は迷わず決めて、候補に考えていた曲を改めて何度か聴いて『空を遮る首都高速』と『Yellow Butterfly』を。

 最後の5曲目はかなり迷いました。結局、曲を聴き返す中で『抱きしめられていたい』のラストのフレーズの力に抗えなかった、という感じです。

 迷った末に外したのは、和田彩花さん『ホットラテ Hot latte』と、中島卓偉さん『ポツンと』。『ホットラテ Hot latte』は冒頭リズムパートがないのに2拍4拍に入るボイス系の和音とピアノのエフェクトでビートを感じさせるところが好きで、Juice=Juice『ポツリと』のセルフカバーである『ポツンと』は、歌詞が一部変わることで恋愛の中の孤独を歌っていた原曲からより普遍的な孤独を歌う曲へとなっているのが惹かれた部分でした。

 

 MV部門はデフォルトのままの配点で。

 こちらも『意識高い乙女のジレンマ』と『あなたが選んだもの、あなたが選ぶもの』は迷わず決めて、最後は楽曲部門を選ぶ過程で何度も見ているうちに引き込まれた『ホットラテ Hot latte』を選びました。

 ほかには、Juice=Juice『好きって言ってよ』も候補に考えていました。わりとシンプルな構成ですが、1番Bメロでセットの奥行きを使ってメンバーを見せていくカットがなんか好きなんですよね。

 こぶしファクトリーのラストシングル2曲も印象深いミュージックビデオなのですが、2曲がつながる構成になっていたため、1曲選ぶとなると選びにくかったです。

 

 YouTube部門もデフォルトの配点です。

 はい、察しの良い方はお気づきかもしれませんが、3本選ぶのだと思いこんでいました(笑)。なのですべて『「井上玲音がJuice=Juiceの歌を・・・」』でと考えていたのですが、投票の段になって5本だと気づき、期限もギリギリだったためもう一度選び直すのも難しく、記憶に残っていた『ハッケン!音楽塾』の2本を追加したというかたちです。

 投票対象はかなり幅広かったわけですが、「楽曲大賞」なので音楽がメインのものの中から選ぶというのはなんとなく自分の中で意識していました。

 

 推しメン部門は、もうこれはなんの迷いもなく。

 

 今年は社会全体のこの状況の中でハロプロ関連のリリースが少なく、当然、楽曲部門、MV部門のノミネートも例年に比べて少なくなりましたが、個人的にはYouTubeのみで配信の曲なども含めバラエティに富んだ楽曲があったと感じています。だから選考も例年と比べ難しかったということはなかったかな。

 ただ、個人的な事情で11月から12月まであまり時間がとれなかったため、投票対象でもチェックできなかった作品があったり、投票コメントも充分に練れなかったりと、心残りのある今回の楽曲大賞となりました。

 

 結果発表も間近に迫っていますが(この更新をしているのは12月29日です)、実はここ数年は楽曲大賞の全体の結果はあまり気にしなくなってきました。

 それよりも、ほかの方々がどういう曲を選び、その曲をどう捉えていらっしゃるのか、投票内容やコメントを見るのを楽しみにしています。

 すでにブログなどで何人かの方の投票内容を読んで楽しませていただいていますし、今後も私はそういう感じで楽曲大賞を楽しんでいこうかなと思っています。 

恋時計

先日、YouTubeハロー!プロジェクトのコンサートやファンクラブ向けイベントの公式ダイジェスト映像が何本か公開されました。メンバーのコメントや字幕などから海外のファンの方をメインターゲットに想定しているもののようですが、本来は観られる方が限られているイベントなどの模様が観られるのはありがたいことです。

 さて、公開された動画の中のJuice=Juice金澤朋子さんバースデイイベントアンコール公演ダイジェスト映像で、つばきファクトリーの『ふわり、恋時計』が歌われているのですが、これが素晴らしい!
 ひとりのシンガーによって歌われることで、歌詞の主人公の気持ちの移ろいが、より鮮明に、繊細に、ひとりの人の感情の揺らめきとして表現されているように感じます。

 “手折って”から始まり“君だけに見られたくて”まで続くサビでの「て」の脚韻も、流麗に美しき引き立っていると思います。
 もともと『ふわり、恋時計』は好きな曲ですが、金澤さんの歌唱によって、また楽曲の新しい表情が観られた気がしています。
 イベントで金澤さんが歌ったと知ってから見て(聴いて)みたいと思っていたのですが、ワンコーラスだけとはいえ映像で触れられる機会があってよかったです。

 


Juice=Juice Tomoko Kanazawa BirthdayEvent 2020 Encore Performance』Digest(1st Performance)

(『ふわり、恋時計』は4分45秒くらいからですが全編よいのでよっぽどのっぴきならない事情でもない限り最初から最後まで観ましょう)

 


 以下は『ふわり、恋時計』についてちょっと余談。
 この曲は、過去の痛みから恋愛を避けていた主人公の、新たな出会いで変わりはじめた心を動き出した時計に喩えた歌詞で、歌詞だけでなくサウンドでも時を刻む秒針の音が印象的に使われえています。
 楽曲の制作工程を想像すると、歌詞で「時計」が使われていたから編曲の段階で時計の音が取り入れられたと考えるのが自然かと思います。
 ただ、この曲の作曲者の星部ショウさんがご自身の公式サイトで書かれた ライナーノーツ“制作時に大好きで聴いていた”曲のひとつとして挙げられているのがZedd, Alessia Caraの『Stay』。
 別れの予感を感じる中でStay=ここにいてほしいと歌う切ない曲で、別れが留めようもなく近づくのが“The Clock is Ticking”と歌われ、時計の音も使われています。


Zedd, Alessia Cara - Stay (Lyric Video)


 もしかしたら、歌詞が付く前のデモ音源の段階で『Stay』を意識して時計の音が使われていて(さらに可能性としては仮の歌詞に「時計」が出てきていたのかも)、それが「恋時計」というフレーズに発展したのではと、そんな想像も膨らむのでした。