押韻の魅力

つばきファクトリー『意識高い乙女のジレンマ』を聴くたび、歌い出しの歌詞の響きが気持ちいいと感じます。

忙しいなんて 言い訳はナンセンス

同じメロディで繰り返されるこのふたつのフレーズは、フレーズの頭が「忙しい」「言い訳」と、同じ「い」の音で揃える頭韻になっており、最後は「なんて」「ナンセンス」と響きの似た音で揃える脚韻になっています。
ここでポイントなのは、普通の文章として読むと、エ段で終わる「なんて」とウ段で終わる「ナンセンス」では脚韻になっていないことです。
メロディに乗って「なんて」の「て」と「ナンセンス」の「センス」が同じ長さの音符ひとつ分で歌われ、符の頭になる「て」と「セ」が強調されることで、エ段での脚韻になっています。
メロディに乗せて歌われるという「歌詞」の特徴を生かした巧みな技法だと思います。
この頭韻と脚韻の心地よさが、曲の世界にリスナーをスッと引き込んでいっていると思います。

(※引用は つばきファクトリー『意識高い乙女のジレンマ』作詞:西野蒟蒻 作曲:KOUGA より)

 

つばきファクトリーの曲には、頭韻や脚韻=押韻を効果的に使った曲が多いように感じています。

低温火傷』では、Aメロ「氷のビル街溶かしそうなくらい」の「ビル街」「くらい」の「a・i」、Bメロ「 「小さい手だな」握られたら」の「だな」「たら」の「a・a」、サビ「君に低温火傷してる胸中 気づいたときにはもう遅すぎる」の「胸中」「すぎる」のウ段と、それぞれのパートで脚韻が使われ、歌詞が描く情景をより印象深くしています。

(引用は つばきファクトリー低温火傷』作詞:児玉雨子 作曲:大橋莉子 より)

 

『I Need You ~夜空の観覧車~』サビでの「I need you」(発音は「アイニージュウ」となる)の繰り返しから「世界中」で脚韻する流れる感じは実に気持ちいいです。

(※引用は つばきファクトリー『I Need You ~夜空の観覧車~』作詞・作曲:星部ショウ より)

 

最新シングルの1曲『涙のヒロイン降板劇』でもBメロの「取り返せ プライド」「繰り返す つらいの」という母音が「u・a・i・o」になる言葉を重ねた押韻も印象的です。

(※引用は つばきファクトリー『涙のヒロイン降板劇』作詞:山崎あおい 作曲:Shusui/Josef Melin より)

 

つばきファクトリー以外でも、ハロプロの曲には押韻が印象的な曲がたくさんあります。

ひとつ挙げると、モーニング娘。の『YES笑顔ヌード』。

歌い出しから

溢れるヒカリ
漂うブラックベリー
愛してやまないその瞳

と、2行が「り」で脚韻し、更に次の行もイ段で脚韻。このパターンがAメロでは続いていきます。
日本語も外来語も織り交ぜ、おそらく韻を踏むことを優先して選ばれたのではないかと思われるワードが耳に残り、その言葉の雰囲気がこの曲の空気を作り出しているように感じます。
また2番2回目では3行目でのイ段の脚韻のパターンを崩して、このフレーズを引き立てているのも効果的だと思います。

(※引用は モーニング娘。笑顔YESヌード』作詞・作曲:つんく♂ より)

 

 

歌詞での押韻はもちろんハロプロ以外の楽曲でもごく当たり前に使われているものです。
ただ、ハロプロ楽曲では制作の段階で押韻が特に意識されているのではないかと思うことがあります。というのも、ハロプロの楽曲で押韻が印象的だった作詞家の方のハロプロ以外での作品を聴くと、決して押韻が多用されいるわけではないからです。歌詞の依頼の際に制作サイドから「韻を踏んでほしい」というオーダーがあるケースが多いのではないかと思っています。

 

歌詞について語られる場合、そこから浮かび上がる情景や感情、あるいはそこに込められたテーマやメッセージなどが重視されることが多いと思います。
しかし、言葉の響きやリズムといった技巧的な部分も、歌詞を語る上で重要な要素だと思っています。