映画『音響ハウス Melody-Go-Round』

  11月14日より公開されている映画『音響ハウス Melody-Go-Round』を先日鑑賞しました。
 簡単に説明すると、東京・銀座にあり、多くのミュージシャンが使用し数々の名盤が生まれる場となったレコーディングスタジオ・音響ハウスの歴史をミュージシャンや関係者の証言で綴るドキュメンタリー映画なのですが、映画の冒頭を飾るのはギター・佐橋佳幸さん、キーボード・井上鑑さん、ドラムス・高橋幸宏さんが3人一緒にスタジオに入り、エンジニアの飯尾芳史さんとともにおこなうレコーディングの様子。この映画は、映画のために作られた新曲の制作過程を追うドキュメンタリーでもあるのです。
 新曲のレコーディングに参加するのは、前述のメンバーに加え、ヴァイオリンの葉加瀬太郎さんや、村田陽一さん、本田雅人さん、西村浩二さん、山本拓夫さんのホーンセクション、コーラスと作詞をつとめる大貫妙子さんといった日本を代表するミュージシャンたちと、まだ十代前半のヴォーカリスト・HANAさん。
 このメンバーによるレコーディングの光景が実に面白い! 熟練のミュージシャンたちの、高度な演奏を追求しつつも決して緊迫することのない様子は観ていて楽しくなります。自らもレコーディングエンジニア出身で、ミュージックビデオなどを手掛けてきたという相原裕美監督の、自然にスタジオの空気を切り取ったように見せる手腕もお見事です。
 また、レコーディング・映画撮影は2019年におこなわれており、高橋幸宏さんが脳腫瘍の手術を受け療養中である現在、元気にドラムを叩きお話をする姿が映し出されることにも特別な感覚がありました。

 映画の中で制作された楽曲『Melody-Go-Ronud』はデジタルシングルとしてダウンロード販売やストリーミング配信がすでに始まっており、ミュージックビデオのショートバージョンがYouTubeでも公開されています。

 


Digital Single「Melody-Go-Round」Music Video(Short ver.)

 

 もちろん、レコーディング風景に加え、さまざまなミュージシャンが語る音響ハウスにまつわるエピソード、そして映画の最後にほぼすべての出演者に共通して投げかけられるある問いとその答えも興味深いものでした。

 私にとっては、映画の中心となる佐橋佳幸さんと飯尾芳史さんをはじめ、所有するCDにお名前のあるミュージシャン・クリエイターが大勢出演しているということでたまらない作品だったのですが、そうでなくてもレコーディング、音楽制作などに関心がある方なら楽しめる作品ではないかと思っています。たとえば、アップフロントの配信番組『アプカミ』でのレコーディング映像を面白く感じる方なら、この作品も楽しめるのではないかと思います。

 また、この作品は人が“集まる場”とそこで生まれるものを描いており、それは奇しくも現在に特別な意味を持っていると思います。

 上映館は限らているのですが、もし興味を持たれて機会があればぜひご覧ください。

 

onkiohaus-movie.jp


映画「音響ハウス Melody-Go-Round」予告

 

二本の鳥が示すもの――『空の青さを知る人よ』に登場する楽器について思うこと

【簡単な前置き】

 本日11月11日は、並んだ4つの「1」が4本の弦に見えるということで「ベースの日」になっています。

 なにかしら「ベースの日」にちなんだ更新を、と思い、昨年ベースが登場する劇場用アニメ『空の青さを知る人よ』を観たときに書いたまま眠らせていた文章を一部手直しして載せることにしました。

 この映画の関連書籍やスタッフインタビューなどにはほとんど目を通していないので、すでにどこかで語られている話題だったらすみません。

 では、以下から本文です。

 

二本の鳥が示すもの

『空の青さを知る人よ』は、2019年に公開された劇場用アニメだ。
 舞台は埼玉県の秩父をモデルとした町。毎日ベース演奏に励む女子高生のあおい、あおいの姉で役所に勤めるあかね、かつてのあかねの恋人で演歌歌手のバックバンドとして高校卒業以来13年ぶりに町に戻ってきた慎之介=通称・しんの、そしてあおいの前に現れた高校時代のしんのの3人(4人)を中心に、ファンタジックな展開も交えた物語が綴られていく。
 この作品を鑑賞したとき、劇中に登場するベースやギター、アンプなどの楽器類が、メーカーのロゴまでそのままなほど写実的に描かれていることに驚いた。さらに驚いたのは、その綿密な楽器の設定が、作品の中でしっかりと役割を持っているように感じられたことだった。

 ヒロインのあおいが劇中で使用するベースは、エピフォン(Epiphone)というメーカーのサンダーバードThunderbird)という楽器だ。サンダーバードはいくつかバリエーションがあるが、あおいの愛器はThunderbird Proというモデルである。映画公開時点では楽器店で見かけることも多かったし*1、店頭価格5〜6万円なので高校生が持つ楽器という設定にあっている。

 このあおいの愛器の製造元であるエピフォンは、もともとは独立した楽器メーカーだったが、ある時期からは大手楽器メーカー・ギブソンGibson)の傘下となっており、現在はエピフォン独自のモデルのほか、ギブソンのギターやベースの廉価版を製造するブランドとして知られている。サンダーバードも、もともとはギブソンのベースだ。

 そのギブソンの楽器も『空の青さを知る人よ』に登場している。上京したもののミュージシャンとして成功できず大物歌手のバックバンドをやっている慎之介が、バンドを組んでいた高校生時代に使っていたギターがギブソンのファイヤーバード(Firebird)なのだ。ファイヤーバードもバリエーションが多いが、しんのが使っていたのはファイヤーバード・スタジオというモデル。製造が始まったのは2000年代前半でしんのの高校生時代という年代に合っているし、新品価格が10万円台とギブソンの楽器の中では低価格だったので、高校生のしんのが持っているのも不自然ではない。

 さて、サンダーバードとファイヤーバードという名前で気づく人もいるかもしれないが、この二者は兄弟モデルというか、ファイヤーバードのベース版がサンダーバードというような関係で、形状も似ている。
つまり、あおいとしんのはベースとギターという違いはあるが、同じ系列のメーカーの、ごく近いモデルを使っているのだ。

 あおいは、まだ幼かったころ姉と一緒にしんの達のバンドの練習を見ているうちにベースに興味を持ち、のちに自らベースを手にしたという動機が劇中で示されている。
 だが、高校時代のしんの達のバンドのベーシストが使っていたのはサンダーバードではない。またサンダーバードは決してベースとして一般的なモデルとは言えない。少なくとも、楽器店の店員が初心者に勧めるようなベースではないだろう。あおいが単に「ベースに」興味を持っていたのなら、サンダーバードは選ばないはずだ。あおいは、おそらく「あえて」しんのが使っていたギターと似たベースを選んでいるのだ。
 あおいがしんのに対してどんな感情を抱いているかは、劇中でも描かれている。だが、高校生になったあおいがサンダーバードを選んでいることが、その描写以上に、あおいのしんのへの深く、簡単には説明できない感情を示しているように思えるのだ。


 映画の中では、サンダーバードとファイヤーバードの関係は説明されていないし、楽器が意味を持つような描写、たとえば慎之介があおいのサンダーバードを見てなにかに気づくとか、あるいはあおい自身が自分がサンダーバードを選んだ理由を考えるといったような場面もない。だから、ここまで書いたことは私の考えすぎたことかもしれない。
 ただたとえそうであったとしても、私にとって楽器、特にベースやギターというのは、音楽を奏でる道具であると同時に、こんな想像を掻き立てられる存在でもあるのだ。

 


映画『空の青さを知る人よ』予告【10月11日(金)公開】

 

 

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*1:2020年にエピフォンの製品ラインナップに大きな変更があり、Thunderbird Proはカタログ外となり店頭でも見かけなくなった

『のぼる小寺さん』の〈見る〉と〈触れる〉

【ちょっとした前置き】

工藤遥さん主演の映画『のぼる小寺さん』を鑑賞したあとに考えたことを書いてみました。

最初はどこか別の場所に載せようかと思っていたのですが(だから文体がいつもと違う)、あんまりここを放置するのもと思いここに載せることにしました。

映画の内容にラストも含めて思いっきり触れてますので映画を未見の方は読まないのがおすすめ。

では、このあとから本文です。

 

 

 

『のぼる小寺さん』の〈見る〉と〈触れる〉

 ひたむきにボルダリングに打ち込む高校生女子・小寺さんを主人公にした映画『のぼる小寺さん』。この映画は〈見る〉ことと〈触れる〉ことについての映画だと捉えることができるかもしれない。

 映画では冒頭から〈見る〉という行為が強調されている。物語のもうひとりの主人公である卓球部の男子・近藤は、体育館で練習する小寺さんをずっと見ており、そのことを周囲に指摘されたりしている。
 近藤だけでなく主要なキャラクターの多くが、小寺さんが練習する姿や練習で荒れた小寺さんの手のひらを〈見る〉のをきっかけに小寺さんに惹きつけられ、やがてそれぞれの目標を見出していく。「小寺さんを見てると」といったセリフも何度か登場する。
 進路調査書を白紙で提出するような、漠然と日々を過ごしていた登場人物たちが、小寺さんを〈見る〉ことで変わっていく。この映画はそういう物語といえる。
 では〈見られる〉存在である小寺さんの側を考えてみるとどうだろう。
 小寺さんは〈見られる〉ことに無自覚なキャラクターとして描かれている。他人の視線を意識しないとも言える。だから小寺さんは、練習用ウォールの具合をたしかめるために制服のままでウォールを登ってしまうし、ラーメンを食べるとき椅子の上に脚を上げて先輩に行儀が悪いと注意されたりする。
 だがそんな小寺さんは、映画の中のある時点で〈見られる〉ことを意識しだす。
 カメラ好きの女子生徒・田崎は、ひそかに小寺さんの写真や動画を隠し撮りしていた。田崎が撮った練習中の自分の動画をたまたま目にした小寺さんは、自分がイメージ通りにクライミングできていないことを知り、田崎に練習を撮影してほしいと頼む。他者の視点によって得られるものがあることに、小寺さんは気づくのだ。
 近藤や田崎たち周囲の登場人物たちが物語を通して明確に変わっていく中で、小寺さんはただひたすらボルダリングに一生懸命な存在のまま、映画のラストまで変わっていないようにも見える。しかし、実は小寺さんも他人に〈見られる〉ことで築かれる関係を知り、変わっているのではないか。
 映画のラストで小寺さんに告白をする近藤が、自分のことを見てほしいと告げるのは、この流れを踏まえると実に自然だ。

 

 もうひとつ、映画『のぼる小寺さん』では〈触れる〉ことが慎重に描かれているように感じる。
 小寺さんと同じクライミング部の男子部員・四条が、勝手にウォールに登ろうとする生徒を止めようとして揉める場面がある。このとき、その場に居合わせた近藤は、心配そうに四条に声をかけるものの、四条に手を差し伸べたりはせず見ているだけである。ここで近藤と四条の間にあるのは〈見る〉〈見られる〉関係なのだ。その近藤と四条は、文化祭の準備をする中で自然に互いの心境を明かし、このとき四条は近藤に〈触れる〉。
 また、文化祭の最中に四条がある女子生徒と付き合っていることが明らかになるのだが、回想で描かれる告白場面で、その女子生徒が四条に告げているのは「ずっと見てました」という言葉だ。この時点での四条とその女子生徒の間にある関係も〈見る〉〈見られる〉なのだ。それがすでに付き合いはじめている文化祭中の場面になると、その女子生徒は別れ際に四条に〈触れる〉。
 近藤と四条も、四条と女子生徒も、その間に築かれたつよい関係を表現するときに〈触れる〉という行動が使われているように思える。
 映画の中で、小寺さんが誰かに〈触れる〉場面は少ない。派手目な女子生徒・倉田にネイルをしてもらう場面で小寺さんと倉田はお互いの手に触れているが、これはネイルをするというちょっと特殊なシチュエーションだ。
 だからといって小寺さんが〈触れる〉関係と無縁なのかというと、そんなことはない。小寺さんは岩場でクライミングするときに「岩さん、よろしくお願いします」と岩に抱きつくし、練習で日々ウォールに触れている。小寺さんは、ほかならぬボルダリングそのものと、つよい関係を築いている。

 

 映画のラストで近藤に告白された小寺さんは、近藤と背中合わせになり、もたれかかるようにして近藤に〈触れる〉。

 いままで見られることを意識せず、登る先だけを見て、ボルダリングだけに触れてきた小寺さんは、見られることを意識し、誰かを見て、触れる関係を、まだぎこちないけれど築きはじめようとしている。物語のラストは、そんな小寺さんのスタートだ。

 

www.koterasan.jp


【7.3公開】映画『のぼる小寺さん』90秒予告

 

ハロプロ楽曲大賞’19

毎年恒例の「ハロプロ楽曲大賞」、2019年も参加しました。以下に私の投票内容を記載します。(※12月11日付けになっていますが、内容を記載したのは30日です)

 

楽曲部門

つばきファクトリー『ふわり、恋時計』


つばきファクトリー『ふわり、恋時計』(Camellia Factory[Softly, the clock of love.])(Promotion Edit)

四七抜き音階をベースにした「和」を感じさせるメロディ。歌詞もその雰囲気に合わせた言葉がセレクトされていますが、しかし「和」にこだわりすぎることのない絶妙なバランスの仕上がりになっていると思います。「さよならの残像」や「かさぶた」というフレーズで、過去の恋が残したものを説明するのではなく感じさせるのも好きな部分です。そして、サビで「て」で脚韻していくのが印象的なのですが、その始まりが「手折って」なのが素晴らしい。日常的に使われる言葉ではないからこその固さや静謐さが、この曲全体の色を決め、戸惑いながらも自分の心に向き合う主人公の凛とした在りようを描き出していると思います。

 

こぶしファクトリーハルウララ


こぶしファクトリー『ハルウララ』(Magnolia Factory [Haru Urara-Beautiful Spring])(Promotion Edit)


「見守ることはできるけど、見守ることしかできない」関係を描く歌詞。メンバーの声が、歌が、その関係の中にある感情をより繊細に、そして鮮やかに際立たせていくようです。特に間奏明けのパートが描く感情は絶品。さらに、曲を表情豊かに染め上げていく多彩なコーラスワークや印象に残るフェイクなども印象に残るところ。もちろん、どこか郷愁を誘うような12弦ギターの響きや、歌心あふれるドラム、メロディアスなギターソロなど、歌に寄り添い支えるようなアレンジワークも気持ちいいところです。ドラマティックに曲の世界を作り上げていく「声の力、歌の力」を感じた1曲でした。

 

Juice=Juice『微炭酸』


Juice=Juice『微炭酸』(Juice=Juice[Lightly Sparkling])(Promotion Edit)


爽やかなイメージを連想しがちな『微炭酸』というタイトルで切ない歌という心地よい裏切り感。しかもただ意外性を持たせるだけでなく「弾けた」恋や「弾け切れない」私というように「微炭酸」という単語を巧みに「叶わなかった恋」と結びつけていく歌詞に惹かれました。また、歌詞が基本的に「状況」や主人公の「心情」の描写で進んでいく中、Cメロ明けでスッと「情景」の描写を入れることで絵を浮かばせるところも好きな部分です。一度聴いたら覚えられるほど印象の強いサビのメロディや、自然に転調の流れを作っていくメロディも見事。イントロで下降したフレーズが、同じ音色で上昇して終わるところがドラマを感じさせます。

 

カレッジ・コスモス『わたし革命』


カレッジ・コスモス『わたし革命』(College Cosmos [My Revolution])(MV)

ファーストシングルに比べメンバーのソロパートが増えてより「個」を印象づけるカレッジ・コスモスのセカンドシングル曲。上下の動きが大きなメロディはファーストから一貫した部分ですが、特にこの曲では山木梨沙さんの声質がメロディの高音部分をより引き立てていて耳に残るところ。歌詞の面でも前作から引き続き、学生時代の葛藤やSNSといった題材をうまく歌詞に織り込んでいると思います。そしてサビの「わたし革命 鳴らせファンファーレ」でのエ段での脚韻(「革命」の「め」が強く発音されるため)がとにかく気持ちいい。ベースのフレージングや、イントロからAメロでのギターの単音カッティングのカッコよさなど、インスト面でも聴きどころ満載。

 

Juice=Juice『ポツリと』


Juice=Juice『ポツリと』(Juice=Juice[Solitary])(Promotion Edit)

セヴンスの音を印象づけるピアノのフレーズの反復と、人工的なサウンドのリズム、U2風のディレイのかかった幻想的なギター。むしろ無機的な雰囲気を漂わせるサウンドから、サビで一転、ストリングスなどが加わり荘厳さすら感じさせるスケールの大きなサウンドへと変化するところが魅力です。「ポツリと」独りでいることの寂寥感を歌うサビが雄大サウンドに乗った厚みのあるユニゾンで歌われるのは歌詞の内容とあっていないようでもありますが、逆説的に歌詞で綴られる感情を強く訴えていると思います。間奏明けのソロパートで、ほかのパートでは抑えられていたような生々しさを感じさせるのも魅力的です。

 

MV部門

こぶしファクトリーハルウララ

ロケパートでは(おそらく)桜の花を目立たせるためにかなり暖色系に振ったカラーグレーディングがされていますが、それゆえにメンバーの衣装の一部に使われているブルーや何度か映し出される青空の青が引き立って美しい絵を作っています。特に冒頭のカットでのヘッドフォンの色がアクセントとなった色合いのバランスが素晴らしいです。イメージシーンでのシルエットを用いた演出も巧みだと思いました。

カントリー・ガールズ『One Summer Night ~真夏の決心~』


カントリー・ガールズ『One Summer Night ~真夏の決心~』(Country Girls [One Summer Night -midsummer decision-]) (MV)


  本来は恋愛の歌であるところを、歌詞で描かれているシチュエーションやイメージを活かしつつも重心を恋愛から女子グループの友情へとスライドさせ、爽やかさと切なさのある青春ストーリーとして映像化しているところにうまさを感じました。スマートフォンに表示されるメッセージを用いることで、セリフや過度に説明的なカットを使うことなくストーリーを伝えているところもテクニックを感じた部分です。

 

カレッジ・コスモス『夢は意地悪』


カレッジ・コスモス『夢は意地悪』(College Cosmos[Dreams are mean.])(MV)

メンバー自身による文章を文字として映し出すというストレートな手法を使う一方で、メンバーの衣裳の色とリンクするような「白い部屋と青空」「白とブルーの風船」、さらに「他者の視線」を象徴するようなカメラ、歩いている・駆け出す足元という、直接的ではないイメージ描写を重ねることで葛藤や迷い、そこからの決意を感じさせている点が印象に残りました。光と影の巧みな使用も好きな部分です。

推しメン部門

保田圭

理由は簡単にはまとめられないので割愛とさせていただきます。

 

後記的なもの

楽曲部門はこの順番で投票しましたが配点はすべて同一の2.0、MV部門はデフォルトの3.0、2.0、1.0という配点にしてあります。

実は楽曲部門ではわたし的に大きな出来事がありました。ハロプロ楽曲大賞に参加しはじめて以来、おそらく初めて娘。の曲を入れませんでした。娘。のノミネート曲が少なかったという理由もありますが、投票する曲を考えているときに『I surrender 愛されど愛』は入れるかどうかはすごく悩みました。ただ、実際に投票したほかの曲のほうにつよく惹かれてしまったというところです。

こうして自分の選んだ5曲を見てみると、今年は奇をてらわずストレートな曲に私の志向が向いていたのかなと思っています。

また、今回5曲すべてシングル曲となっていますが、別に自分でシングル曲だけから選ぼうと縛りを設けていただけではなく、たまたまつよく惹かれた曲を5曲選んだらシングル曲になったということです。

MV部門は、印象に残っていた3曲であまり迷わず。

推しメン部門は、まあ当然ですよね。

 

今回も、ほかの方のコメントなどを見るのを楽しみにしています。

 

 

カレッジ・コスモス セカンドシングル

カレッジ・コスモスのセカンドシングル『幸せのありかはどちらですか/わたし革命』が10月9日にリリースされました。
『幸せのありかはどちらですか』では人生の選択の時期を迎えた心理、『わたし革命』ではSNSを介して築く関係の可能性と、2曲ともファースト・シングル同様に大学生にとって身近であろう事柄を歌詞の題材に選び、また起伏の大きなメロディで高音部分をファルセットで際立たせるという手法もファーストシングルの曲に引き続いて使われており「これがカレッジ・コスモスの曲である」一貫したコンセプトに基づいて楽曲が制作されているのを感じさせます。

それに加えて、メンバーの「個」がより目立っているのが今回のシングル2曲の大きな魅力だと思います。
『わたし革命』は歌い出しのフレーズが同じメロディを2回くり返すのではなく、モチーフは共通しつつも後半では1オクターブ上の音を使って変化を与えているのが印象に残りますが、後半をソロで歌う山木梨沙さんの声質が高い音を使ったメロディをより引き立てていると思います。
また、間奏明けのサビを、ややハスキーな声質の中島菜々さんが担当しているのも曲全体のアクセントになっていると思います。また、ミュージックビデオでわかるように、長身で茶髪のショートヘアとカレッジ・コスモスの中ではやや異色のルックスの中島さんがヴィジュアルの面でもアクセントになっていると思います。

 


カレッジ・コスモス『わたし革命』(College Cosmos [My Revolution])(MV)

サビのフレーズ「わたし革命 鳴らせファンファーレ」の、ア段での頭韻とエ段での脚韻(「革命」が「かくめぇ」的に発音されているため)の心地よさがたまりません。
イントロ・間奏からAメロの左チャンネルで鳴っているギターの単音カッティングがメチャクチャカッコいいのも聴きどころです。たぶんストラトハーフトーンかな?


9月に2曲同時に公開されたミュージックビデオを観て、特に『わたし革命』が実際にパフォーマンスされているところを観てみたいなと思い、9月29日に新宿でおこなわれたシングル発売記念ミニライブを観に行きました。
私はカレッジ・コスモスを生で観ること自体が初めてだったのですが、ひとつ軽く驚いたのが全曲生歌だったことでした。以前に映像で観たお披露目のときのパフォーマンスは生歌じゃなかったので、いまもそうなのかと思っていたのです。
実際に生の歌とダンスで観るカレッジ・コスモスのパフォーマンスはとても魅力的で、実は前述の理由でちょっと観られればいいかな程度の軽い気持ちで行っていて、この日3回ミニライブがあったうちの1回しか観ない予定にしてしまっていたことを悔やんだほどです。
ファーストシングルの曲『夢は意地悪』なんかは、冒頭のユニゾンが生で歌われることでCD音源とは違った力強さが生まれており、屋外の会場ということも相まって、素晴らしいライブ体験でした。
そのカレッジ・コスモスの生のパフォーマンスの魅力は、10月9日のリリース日にラクーアガーデンステージでおこなわれたミニライブの映像で、一端が感じてもらえるのではないかと思います。
ごく短時間のダイジェストの上、日が落ちてからのミニライブで映像が暗いのがちょっと残念です。

 


カレッジ・コスモス/2ndシングル「幸せのありかはどちらですか/わたし革命」発売記念ミニライブ

 


カレッジ・コスモスは、9月に発表されていたとおり今春大学を卒業したメンバー9人が10月いっぱいでグループを卒業するのに加え、現役大学生メンバー1名も学業専念のため同時に卒業、さらに山木梨沙さんもカレッジ・コスモスとしての活動は10月末日が最後ということで(卒業の日付としてはハロー!プロジェクトカントリー・ガールズと同様に12月となるようです)、10月いっぱいで11人のメンバーが離れることになりました。
現体制での活動最終日となる10月31日には、ラクーアガーデンステージで再びミニライブが開催されます。グループのひと区切りとして重要なミニライブであるのはもちろんですし、なによりカレッジ・コスモスのミニライブがすごく魅力的だといま私は感じています。このミニライブ、必ず観に行くつもりです。

非対称な切なさ

2月13日にリリースされたJuice=JuiceのトリプルA面シングルは、どれも初めてラジオオンエアで聴いたときから気に入っていた曲で、リリースを楽しみにしていました。

その中の1曲『微炭酸』は、昔からの友達だった「君」に彼女ができたことで揺れる「私」の気持ちを歌った切ないナンバー。
爽快感の象徴として使われることの多い「炭酸」を「弾ける恋」に重ね切なさのイメージと結びつけた歌詞の発想が秀逸だと思います。
「微炭酸しゅわしゅわ」というサビのフレーズは1回聴いただけで覚えてしまえそうなくらい印象的。自然に転調していくメロディの流れもきれいです。

2番の歌い出しの歌詞は

友達なら隠し事はしないでいようね
まだ子どもでいられた日の 約束が憎い

約束を守って、彼女ができたことを友達に隠さない「君」。
いつの間にか「君」に想いを寄せていたことを「君」に隠してしまっている「私」。
非対称なふたりの関係が切ないです。
でも「私」も約束を破ってはいないのかもしれません。
「私」にとって「君」は、もう「友達」ではなく片想いの相手になっているのだから。

 


Juice=Juice『微炭酸』(Juice=Juice[Lightly Sparkling])(Promotion Edit)


信号がちかちか
誰にも聞き取れない小さな声で
「好き」がこぼれた

信号待ちしているとき、正面に見える信号は赤から青に変わるのだから、点滅しませんよね。
「ちかちか」と点滅する信号が「私」の目に入ったとするのなら、「小さな声で 「好き」がこぼれた」とき、「私」は横を向いていたのではないでしょうか。
隣に立つ「君」のほうを向いていたのか、それとも「君」の反対側を向いていたのかは、わからないけれど。

 

♯ファ・ソ・ レ ♯ファ・ソ・ レ ♯ファ・ソ・ レ ラ・シ・ソ
と、一旦上がってから下降するフレーズが印象的だったイントロ。
アウトロでは、同じ音色が
ド・♭レ・♭ラ
と上昇するフレーズを奏でます。
下降で始まり、上昇で終わる。
ここにこの曲の描く「ドラマ」を感じます。

 

 

※引用部はJuice=Juice『微炭酸』作詞:山崎あおい/作曲:KOUGA より

ハロプロ楽曲大賞'18

毎年この時期恒例「ハロプロ楽曲大賞」に今年も参加させていただきました。

今年は投稿時に予想外の事態があって(後述)ちょっと慌てたりもしたのですが、私の投票内容を以下に記載します。

(※12月11日付更新になっていますが、投票内容は17日に追加しました)

 

楽曲部門

低温火傷つばきファクトリー


つばきファクトリー『低温火傷』(Camellia Factory [Low-Temperature Burn])(Promotion Edit)

2.5

メロディと歌詞のマッチングに巧みさを感じた曲です。サビの冒頭4小節はメロディの下降を活かしたフレーズで、かつ歌詞の最後が「胸中」「遅すぎる」と、口がすぼまるウ段の音のため「閉じた感じ」で終わっています。それが、続く4小節の、口が大きく開くエ段・オ段(2番ではア段)の音を多用し、メロディも上昇が印象的なフレーズの「抑えられない感情」のイメージをより引き立てていると思います。
また、Bメロでの「手だな」「たら」の押韻も、メロディとあいまって耳に残るところです。
キラキラしたシンセやピアノが目立つサウンドは冬のイルミネーションや雪の透明感を連想させますが、その中でギターの音が主人公の「揺れる感情」を象徴するようにも感じられ、ハーモニクスやボディヒットを駆使したアコギ演奏にエディットを加えた間奏や、ラストに残るエレキの音が効果的に響きます。
メロディや歌詞、サウンドが作る世界の強固さが魅力的です。

『Uraha=Lover』アンジュルム


アンジュルム『Uraha=Lover』(ANGERME[Uraha=Lover])(Promotion Edit)

2.0

浮遊感のあるピアノにボーカルが乗り、エッジの立ったサウンドでリズムを牽引するようなギターが加わる曲の冒頭からもうたまりません。メンバーひとりひとりの声質や、ユニゾンしたときの力強さを存分に感じさせてくれるのもこの曲の大きな魅力。そのメンバーの声に彩りを添えるようなリヴァーブや、ヴォコーダーの使用も実に効果的だと思います。
サビの終盤でルートが上昇して盛り上がっていくコード進行が使われているのも好きな部分で、最後のサビのリフレインではその進行がダメ押しのように繰り返されるのも気持ちいいところ。
そして私がこの曲でなにより好きなのがギターソロです。アーミングやライトハンド奏法まで盛り込んで、若干やりすぎ感すらあるギターソロは、ギターのトーンも含めてとにかく好き。しかもギターソロだけが目立つことなく、曲を構成する要素として構築されているのが素晴らしいところだと思います。

『I Need You ~夜空の観覧車~』つばきファクトリー


つばきファクトリー『I Need You ~夜空の観覧車~』(I Need You ~The Ferris Wheel in the Night Sky~)(Promotion Edit)

2.0

8分を刻むピアノに4つ打ちのキック、ベース、U2風のギターが加わり淡々とした感じで幕を開けるサウンドが、スッと曲の世界へと誘ってくれます。歌詞も同様に、情景や行動の淡々とした描写の中に主人公の感情が覗くAメロからはっきり感情を歌うサビへと、自然に誘っていく感じ。
Aメロでのボーカルのエフェクト処理は、そんな主人公の地に足の付かない感覚を表現しているように感じられます。その一方で、恋の始まりへの期待と幸福感の中にある緊張や戸惑いを象徴するかのように間奏で転調するのもよいではないですか。
繰り返される「I need you…」を「世界中」で受ける押韻も気持ちよいところ。サビのメロディの6度の音の使用も耳に残ります。
なにより、最後のサビの9人の「I need you…」が、メンバーひとりひとりの立ち位置を感じさせるような左右に振られたミックスになっているのが、この曲の大きな魅力だと思ってます。 

『Y字路の途中』モーニング娘。'18


モーニング娘。'18『Y字路の途中』(Morning Musume。'18 [In the middle of the forked road.])(MV)

2.0

曲の冒頭で左右に飛び交う時計の音。それ以外にも左右に動く音が曲の随所で使われ、ふたつに分かれた道を前にした「選択の時間」という曲のモチーフを強調するよう。そして2番のAメロではメンバーふたりずつのボーカルが左右に振られて「Y字」に並んだメンバーの姿が目に浮かぶようなミックスになっているところにやられました。
個人的には、ここまで具体的に「卒業と就職」を歌うよりは、もうちょっと抽象度の高い歌詞のほうが好みではあります。でも、1番では「探し続けてる」と、自分の外に求めるものだった「光」が、2番では「輝ける自分」と、自分が放つものになっていく変化、そしてそれを喩えるように「ライトをつけて」というフレーズが織り込まれているところに感情を刺激されました。 
1番の「なかったはずの」「悩みの数が」の「な」で頭韻し「azu」で脚韻しているのも好きな部分です。

『言葉の水を濾過したい』カレッジ・コスモス


カレッジ・コスモス『言葉の水を濾過したい』(College Cosmos[“I Want to Filter the Water of Words.”])(MV)

1.5

SNSの普及により、誰もが容易に自分の言葉を世界に向けて放てるようになった現在。その中で、言葉が“負の力”を持つことを自覚した上で、誰かやなにかの基準によってフィルタリングされるのではなく、自らの意志で言葉を「濾過したい」と決意を謳う歌詞が刺さりました。
音程がオクターブ飛ぶメロディや、高音でのファルセットの使用によって、耳に残るポイントを作っているところはうまさを感じるところです。Aメロでのリズムパターンの流れるような変化や、サビでベースがオクターブ動くフレーズも好きな部分です。
おそらくギター以外は生のサウンドではないと思いますが、ピアノやドラムのアコースティック感がありつつも重くなりすぎない音色選びも曲の心地よさを生んでいると思います。

MV部門

『これからだ!』こぶしファクトリー


こぶしファクトリー『これからだ!』(Magnolia Factory[Starts from now!])(Promotion Edit)

3.0

「挫折と再スタート」をドラマ仕立てで見せる内容ですが、メンバーが演じる5人それぞれのストーリーを感じさせつつ語り過ぎない余白の残し方が絶妙だと思います。和田桜子さんが演じるキャラクターが絵画コンクールで選外となった作品のタイトルが『過去』というところが「いま、描くべきは『過去』ではないだろう?」というメッセージを感じて個人的にはもっとも胸に迫った部分でした。それぞれに再スタートを切った5人の変化を、表情やシチュエーションだけでなく、照明などを変えることで画でも表現しているところも見事。また、すべてをドラマ仕立てにはせず、こぶしファクトリーが歌い踊る姿を見せてくれているところも気に入った部分です。

 

『 I Need You ~夜空の観覧車~』つばきファクトリー

2.0

全体的に被写界深度が浅く、メンバーの顔にピントが合って背景は大きくボケた映像となっていますが、転調する間奏ではピントがずれて画面の中心も顔から外れていくところが、まっすぐに顔を見られない「あなた」の戸惑いや緊張を表しているようでもあり、始まったばかりの恋愛の中にある不安を象徴しているようにも感じられるところが気に入っています。また、観覧車の実際は時刻が表示されている部分に「CAMELLIA FACTORY」と文字を入れている細やかな技も個人的にすごく好きなところです。

『Y字路の途中』モーニング娘。'18

1.0

おそらく、コンサート会場で開演前に撮影されたと思われる、コンサートセットでのメンバーのパフォーマンスを映したシンプルなミュージックビデオではありますが、この曲が歌われるところを観たことがなかった私にとっては嬉しいミュージックビデオでした。シンプルな中、エフェクトの掛かった手書きの歌詞が画面に重なるところなど、限られた条件の中で少しでも魅力的な映像を作ろうという工夫を感じたのも印象に残った理由のひとつです。飯窪春菜さんの娘。卒業にあたっての、プレゼントのようなミュージックビデオだと思っています。

推しメン部門

保田圭(ex.モーニング娘。

今年はご出産という大きな出来事があった保田さん。そんな年に久々に大きな会場のステージで歌い踊る姿を見せてくれたのは嬉しいことでした。いろいろな変化があった1年だったと思いますが、私にとっては変わらない保田さんの芯のようなものを感じられた年でもありました。

 

感想みたいなもの

私の投票内容は以上です。

さて、冒頭に書いた「予想外の事態」がなにかと言いますと。

私は毎年投票コメントはあらかじめ書いておいたものを投票の際にコピー・ペーストして記入しているのですが、今回いつものように記入したところ、楽曲部門で数曲コメントが文字数オーバーとなりました(笑)。

この時点で投票締め切りまで1時間を切っていたため、けっこう焦りながらコメントを書き直しました。基本的には少し表現や表記を変えることで内容を大きく変えることなく文字数調整できたのですが、『低温火傷』に関しては制限400文字のところ500文字以上書いていたため、もともと書いておいた内容を一部カットせざるを得ませんでした。

そのため、急に燃え上がるのではなく気づかぬ内にジワジワと進んでいた恋心を「低温火傷」に喩えた秀逸さと、1番Aメロの「氷のビル街 溶かしそうなくらい」の脚韻の気持ちよさに触れられなかったのは残念です。

来年はちゃんと文字数カウントしておきまーす。

 

今回は楽曲部門に関してはあまり悩まなかったです。つばきを2曲選ぶのはどうかと若干考えたりはしたのですが、そこは素直に気に入った曲を選ぼうということでこの結果に。

ほかには、娘。'17『もう 我慢できないわ ~Love ice cream~』、娘。20th『タネはツバサ (Wings of the Seed)』、アンジュルム『泣けないぜ…共感詐欺』『君だけじゃないさ...friends (2018 アコースティック Ver.)』、こぶしファクトリー『明日テンキになあれ』『ナセバナル』、つばきファクトリー『純情cm(センチメートル)』なども候補として考えた曲です。

MV部門は『これからだ!』『I Need You ~夜空の観覧車~』の2曲は迷わずに。こぶしファクトリー『ナセバナル』もひじょうに好きなので迷いましたが、あと1曲は曲のパフォーマンスがメインとなったものを選びたいという気持ちがあり、上記の3曲となりました。

アンジュルム『Uraha=Lover』を入れるかどうか最後まで考えたのですが、娘。'18『Y字路の途中』の曲の思い入れの部分がまさった感じです。

推しメン部門は、ほかの名前を書く理由がまったく見つからないので。

 

今回も最終的な結果やほかのみなさんのコメントを読むことを楽しみにしています。