劇団東少ミュージカル『人魚姫』


 9月25日に、小川麻琴さん主演の劇団東少ミュージカル『人魚姫』サンシティホール公演を観劇してきました。

サンシティホール前の『人魚姫』ポスター

 通常は、東京の三越劇場で数日間の東京公演をおこなったのち、地方での公演がおこなわれる劇団東少の夏公演ですが、今年は新型コロナウイルス感染症の影響により三越劇場の全公演が中止となってしまいました。地方公演のみとなった今年の夏ミュージカル、行きやすい会場での公演があり、それが無事に開催されたのは幸いでした。

 劇団東少のミュージカルはポピュラーな童話が原作の児童向けのもので、今回はみなさんご存知であろうアンデルセンんの『人魚姫』が原作。キャラクターの名前などに一部劇独自のアレンジがありますが、基本のストーリーは原作そのままで、人間の王子に恋して自分の声を引き換えに人間となったものの王子と結ばれることはなかった人魚姫の悲恋が描かれていきます。

 小川麻琴さんが演じるのは、人魚の国の姫で15歳の誕生日を迎えたマリーナ。

 劇の序盤でマリーナがひとりで歌う場面があるのですが、ここの小川さんの歌がすごくよかったです。ちょっと「小川さんの歌ってこんなだっけ?」と、いい意味で驚くくらい。それだけに、マリーナが声を失うという展開の残酷さと哀しさがより強く感じられた気がしています。

 また、声を失うという展開上、二幕ではマリーナはほぼセリフなしとなるのですが、セリフがなくとも感情が伝わるような小川さんのお芝居は見事でした。

 先に書いたように、物語は基本的にアンデルセンの原作童話のとおりなのですが、ラストの、おそらくこのミュージカル独自であろうアレンジは、ひじょうに印象的なものでした。

 マリーナが海の泡となり、誰もいなくなったステージで、小さな光が星空へと昇っていき、ミュージカル『人魚姫』は幕を閉じます。
 この光が空へと昇っていくのは、原作童話のラストで泡となった人魚姫が空へ昇り「空気の娘」と呼ばれる存在となるのに由来しているのだと思われます。
 ただ、ミュージカル『人魚姫』のラストには、原作とは違った意味も込められていたのだと思います。

 ミュージカル『人魚姫』の序盤には、海の上の世界を見ることを許されたマリーナが、初めて空を見て「空の上にはなにがあるの?」と姉たちに尋ね「空の上を見てみたい!」と無邪気にはしゃぐ場面があります。

 光が昇っていくラストは、この場面と対応していると思うんですね。

 マリーナは、愛した人と結ばれるという願いを叶えることはできなかったけど、でも「空の上を見てみたい」という無邪気な願いは叶ったんだよ。そんな意味を持ったラストに思えました。

 結末をハッピーエンドにするような大きなアレンジをぜず悲劇のままではあるけれど、そこにひとつのささやかな救いは感じさせるような幕の閉じ方であったと思っています。

 約2時間という上演時間が短く感じるような、作品へと引き込まれる素敵なミュージカルでした。

 ぜひ、またこのキャストで再演されることを願っています。